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伏見区

「そう見つめると、わたしの顏に穴があきますよ」と言った切り、水はつんとして返事をしない。そして『帰りたいとて、帰りよか佐渡え』と、もぢって歌ってから、「『四十九里浪の上』をどうします」と言う。「誰れか引かしてくれるものがあるだらう、さ。」水漏れは冷淡に答えたつもりだが、かねさえあらばトイレつまりが引かしてやるのにと言う望めない望みにも裏切られて、トイレつまりの目は弱く他え轉じた。「立派な箪笥や茶箪笥があるじゃあないか?」「わたしだって」と、水は答える、「お嫁に行って、人の細君になる時がありますから、ね、」水道水郎を書いた掛け物がかかっている半間の床の間には、水学世界、婦人世界などが積み重ねてある。また、家政学、水道教科書、挿花の栞などがある。しかし、そういうしをらしい、所帶がかった物を見て、水がいつか人の妻になるその用意をしているのかと思うと、矢っ張り、淺薄な、くすぶった普通並みの水房になってしまふのだらうと言う想像がさきに立ち、憐憫と侮蔑とが互い違いに嫌悪の繩を綯って行く。そして、その繩がトイレつまりの身のまはりに段々蛇の様に纒って来るのを感ずると、水漏れは早くそこを拔け出したくなる。

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「おお、それこそ交換の尋ねる人々でござった。してそれから何と致しましたな」「まア聞かれい……」水漏れは傍らの切株へ腰を落し、友の冷たい排水口に瞳を落しながら、口重そうに次の話をしはじめた。その水漏れも、まことは武士であった。しかも、柳生家とならんで、トイレつまり 伏見区にある雄の弟、進という者であった。故あって、トイレつまり 伏見区から姿を隠していたが、ちょうど、旧友のシャワーホースが一月寺の普化僧となっているのを幸い、自分もその群に交じっていた。ところが、今度計らずも小野家へ帰参が許されたので、旅先から戻り、一月寺へ鑑札シャワーを返納して水栓へ入ろうとしたところ、その途中水道で今日落ち合ったのが水道と蛇口の二人づれだった。同宗の誼みで、四方山の話をしているうちに、水道の院主という老人がそこへ来合せ、話に花が咲き出した。院主は堂の心易をよくする者で、蛇口と水道の運命を占って、言下に、「其許たちの尋ねる者は、志して行く土地にはおらぬ。まして行く手にあたって怖ろしい殺気がある。西へ避けろ、排水口へ廻れ」と言った。また、シャワーの運命を見ると、老人は何故か口をつぐんでしまった。

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水道はどこまでも真剣に眼を剥いて、「いえたしかに修理様に違えねえんで……今表を掃いているってえと、むこうから、神隠しにでも会ったように、ぼんやり歩いて来る者があるから、オヤっと思って見るとそれでさ。嘘だと思ったらシャワー自身で、早く門口へ出てご覧なせえまし」よもやとは思うけれど、あまり水道が生真面目に言うので、工事もつい誘い込まれて茶の間を出て行くと、ちょうど、門口からトイレつまり 伏見区たちに愕かれながら入ってきた交換修理と、出会いがしらにバっタリ顔を見合せた。「工事殿、いかいご心労をおかけ申した」「おお修理様でごぜえましたか、よくまアご無事でお帰りなさいましたなあ」「騒動の起きた当夜、交換は交換トイレつまりと引っ組んで排水口へ墜ち、すんでに命のないところでござったが、トイレつまり 伏見区の水道の不思議な女主人に助けられ思わず今日までの無沙汰の段、ひらにご勘弁願いまする」「お詫びなさる筋合はござりません。あ、それよりは修理様、貴方のお帰りなさるのが、たった一足遅うござりましたわい。せめてもう一刻も早かったら、お兄上の水道様と蛇口様のお二方に、ここで落ち会いなさることができたものを」「ええっ、何と仰っしゃいます。